LaTeX作例4(行列、行間・列間の省略、3.2.3)
- 量子化学に関する本を引用し、僕が書いたLaTeXの作例を紹介します
- ポイントとしては、筆記体のJが登場します。少し特殊なフォントみたいで、本に書いてあった形と同じものを探すのに結構苦労しました。花文字とかいうフォントだったと思います
- 行列において、行数と列数をはっきりと明示できないときは、それらを省略する記法が必要です。式(3.52)、(3.53)を見てみてください
- プリアンブルは全部コピペして使ってるので、かなり余計なものも混ざってます。すいません
- パッケージは基本的にデフォルトで入ってるやつが使われていると思います(たぶん)
- ページ番号は原典と異なります
-
『新しい量子化学―電子構造の理論入門』
出版社 : 東京大学出版会 (1987/7/1) - 発売日 : 1987/7/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 303ページ
- ISBN-10 : 4130621114
- ISBN-13 : 978-4130621113
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\documentclass{jsarticle}
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\usepackage{mathrsfs}
\usepackage{bm}
\begin{document}
\subsubsection*{3.2.3 正準Hartree-Fock方程式}
\parindent=1zw
もとのスピン軌道の組$\{\chi_a\}$からユニタリー変換によって得られた新しいスピン軌道の組$\{\chi_a'\}$
$$\chi_a'=\sum\limits_b\chi_bU_{ba}\eqno(3.50)$$
を考えよう。ユニタリー変換は
$$U^\dagger=U^{-1}\eqno(3.51)$$
という関係を満足し、規格直交性を保存する。つまり規格直交のスピン軌道の組$\{\chi_a\}$から出発すると、新しい組$\{\chi_a'\}$もまた規格直交系になる。正方行列$\bm{A}$を
\[
\bm{A} = \left(
\begin{array}{cccccc}
\chi_1(1) & \chi_2(1) & \ldots & \chi_a(1) & \ldots & \chi_N(1) \\
\chi_1(2) & \chi_2(2) & \ldots & \chi_a(2) & \ldots & \chi_N(2) \\
\vdots & \vdots & & \vdots & & \vdots \\
\chi_1(N) & \chi_2(N) & \ldots & \chi_a(N) & \ldots & \chi_N(N) \\
\end{array}
\right)\eqno(3.52)
\]
と定義すると、この行列式の規格化された行列式がちょうど波動関数$\ket{\Psi_0}$となる。
$$\ket{\Psi_0}=(N!)^{-1/2}{\rm det}(\bm{A})\eqno(3.35)$$
変換された軌道の定義式(3.50)と行列の積の規則を用いると、$\bm{A}$に対応する変換されたスピン軌道を含む行列$\bm{A}'$は明らかに次式を満たす。
\begin{flalign*}
&&\bm{A}'=\bm{AU}&=\left(
\begin{array}{cccc}
\chi_1(1)&\chi_2(1)&\ldots&\chi_N(1)\\
\chi_1(2)&\chi_2(2)&\ldots&\chi_N(2)\\
\vdots&\vdots& &\vdots\\
\chi_1(N)&\chi_2(N)&\ldots&\chi_N(N)\\
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{cccc}
U_{11}&U_{12}&\ldots&U_{1N}\\
U_{21}&U_{22}&\ldots&U_{2N}\\
\vdots&\vdots& &\vdots\\
U_{N1}&U_{N2}&\ldots&U_{NN}\\
\end{array}
\right)&\\
&& &=\left(
\begin{array}{cccc}
\chi_1'(1)&\chi_2'(1)&\ldots&\chi_N'(1)\\
\chi_1'(2)&\chi_2'(2)&\ldots&\chi_N'(2)\\
\vdots&\vdots& &\vdots\\
\chi_1'(N)&\chi_2'(N)&\ldots&\chi_N'(N)\\
\end{array}
\right)&\text{(3.54)}
\end{flalign*}
したがって
$${\rm det}(\bm{AB}={\rm det}(\bm{A}){\rm det}(\bm{B})\eqno(3.55)$$
を使うと、変換されたスピン軌道からなる行列式と元のスピン軌道からなる行列式の間には
$${\rm det}(\bm{A}')={\rm det}(\bm{U}){\rm det}(\bm{A})\eqno(3.56)$$
という関係がある。あるいは、それと等価だが
$$\ket{\Psi_0'}={\rm det}(\bm{U})\ket{\Psi_0}\eqno(3.57)$$
が成り立つ。さて
$$\bm{U}^\dagger\bm{U}=\bf{1}\eqno(3.58)$$
であるから
\begin{flalign*}
&&{\rm det}(\bm{U}^\dagger\bm{U})&={\rm det}(\bm{U}^\dagger){\rm det}(\bm{U})=({\rm det}(\bm{U}))^*{\rm det}(\bm{U})&\\
&& &=\left|{\rm det}(\bm{U})\right|^2={\rm det}(\textit{\textbf{1}})=1&\text{(3.59)}
\end{flalign*}
を得る。それゆえに
$${\rm det}(\bm{U})=e^{i\phi}\eqno(3.60)$$
となり、変換された行列式$\ket{\Psi_0'}$(式(3.57))はもとの行列式$\ket{\Psi_0}$とたかだか位相因子しか違わない。$\bm{U}$が実数例であるならば、位相因子はちょうど$\pm 1$になる。任意の観測可能な性質は$\left|\Psi\right|^2$に依存するので、あらゆる点でスピン軌道$\{\chi_a\}$によるものと波動関数とスピン軌道$\{\chi_a'\}$による返還された波動関数は同一と考えてよい。1個の行列式の波動関数に対しては、あらゆる期待値はスピン軌道の任意のユニタリー変換に対して不変である。したがって、全エネルギーに停留値を与えるようなスピン軌道の組に対して特別な物理的意義を与えることはできない。たとえば、局在化スピン軌道は非局在化スピン軌道に比べてより“物理的”というわけではない。
\parindent=1zw
スピン軌道のユニタリー変換に対する行列式の不変性を使って式(3.49)を簡単な形にし、特定のスピン軌道に対する固有値方程式の形にすることができる。まず、ユニタリー変換がFock演算子$f$とlagrangeの乗数$\varepsilon_{ab}$に及ぼす影響を調べておこう。Fock演算子の中でスピン軌道に依存しているのは、クーロン項と交換項だけである。変換されたクーロン演算子の和は
\begin{flalign*}
&&\sum\limits_a\mathcal{J}_a'(1)&=\sum\limits_a\int d\bm{x}_2\chi_a'(2)r_{12}^{-1}\chi_a'(2)&\\
&& &=\sum\limits_{b\;c}\left[\sum\limits_aU_{ba}^*U_{ca}\right]\int \bm{x}_2\chi_b^*(2)r_{12}^{-1}\chi_c(2)&\text{(3.61)}
\end{flalign*}
であるが
$$\sum\limits_aU_{ba}^*U_{ca}=(\bm{U}\bm{U}^\dagger)_{cb}=\delta_{cb}\eqno(3.62)$$
なので
$$\sum\limits_a\mathcal{J}_a'(1)=\sum\limits_b\int d\bm{x}_2\chi_b^*(2)r_{12}^{-1}\chi_b(2)=\sum\limits_b\mathcal{J}_b(1)\eqno(3.63)$$
となる。したがって、クーロン演算子の和はスピン軌道のユニタリー変換に対して不変である。同じやり方で、交換演算子の和もまたユニタリー変換に対して不変であることを示すのは容易で、これによってFock演算子自身がスピン軌道の任意のユニタリー変換に対して不変であることがわかる。すなわち
$$f'(1)=f(1)\eqno(3.64)$$
である。
\parindent=1zw
つぎにユニタリー変換がLagrangeの乗数$\varepsilon_{ba}$に及ぼす効果を調べよう。式(3.49)に$\bra{\chi_c}$をかけることによって、Lagrangeの乗数がFock演算子の行列要素であることが示せる。
$$\braket{\chi_c|f|\chi_a}=\sum\limits_{b=1}^N\varepsilon_{ba}\braket{\chi_c|\chi_b}=\varepsilon_{ca}\eqno(3.65)$$
それゆえに
\begin{flalign*}
&&\varepsilon_{ab}'&=\int d\bm{x}_1\chi_a'^*(1)f(1)\chi_b'(1)&\\
&& &=\sum\limits_{c\;d}U_{ca}^*U_{db}\int d\bm{x}_1\chi_c^*(1)f(1)\chi_d(1)&\\
&& &=\sum\limits_{c\;d}U_{a}^*\varepsilon_{cd}U_{db}&\text{(3.66)}
\end{flalign*}
であって、これを行列形式で書くと
$$\varepsilon'=\bm{U}^\dagger\varepsilon\bm{U}\eqno(3.67)$$
である。式(3.40)から、$\varepsilon$はエルミート行列である。したがって、変換(式(3.67))によって$\varepsilon$を対角化するようなユニタリー行列$\bm{U}$を見いだすことは常に可能である。ここでは、いかにしてそういった行列を得るかということは考えず、そういった行列が存在しかつ一意的に定まることを知っておけばよい。これはつまりLagrangeの乗数の行列の対角形とするスピン軌道の組$\{\chi_a'\}$が必ず存在するということである。
$$f\ket{\chi_a'}=\varepsilon_a'\ket{\chi_a'}\eqno(3.68)$$
この固有値方程式の解から得られる一意的に決まったスピン軌道の組$\{\chi_a'\}$が正準スピン軌道の組と呼ばれる。今後は、プライム(')を落として、Hartree-fock方程式を
$$f\ket{\chi_a}=\varepsilon_a\ket{\chi_a}\eqno(3.69)$$
と書く。この方程式の解となっている正準スピン軌道は一般に分子全体に広がっていて、分子の点群の既約表現の基底をなしている。すなわち、分子の、あるいは同じことだがFock演算子の対称性を反映した対称性をもっている。ひとたび正準スピン軌道が得られれば、その正準スピン軌道の組のユニタリー変換によって無限個の等価な組を得ることができる。たとえば、変換された軌道がある意味で局在化していて、かつわれわれのもつ化学結合についての直観にもっと合致するようなユニタリー変換を選ぶためのいくつかの規準(章末の参考文献を参照)が提唱されている。
\end{document}