Master3’s blog

LaTeXやExcelVBAなどの作例集

LaTeX作例14(3.4.7 物理量の期待値と電子密度解析)

  • 量子化学に関する本を引用し、僕が書いたLaTeXの作例を紹介します
  • ポイントとしては、集合要素の記号∊が登場します。
  • 筆記体のH,Oが登場します
  • プリアンブルは全部コピペして使ってるので、かなり余計なものも混ざってます。すいません
  • パッケージは基本的にデフォルトで入ってるやつが使われていると思います(たぶん)
  • ページ番号は原典と異なります
  • 『新しい量子化学―電子構造の理論入門』

    出版社 ‏ :  東京大学出版会 (1987/7/1)
  • 発売日 ‏ :  1987/7/1
  • 言語 ‏ :  日本語
  • 単行本 ‏ :  303ページ
  • ISBN-10 ‏ :  4130621114
  • ISBN-13 :  978-4130621113
  • [http://:title]

    3.4.7.tex - Google ドライブ

  • \documentclass{jsarticle}

    \usepackage{mathrsfs}

    \usepackage[dvipdfmx]{graphicx}

    \usepackage{parskip}

    \usepackage{indentfirst}

    \usepackage{amsmath,amssymb}

    \usepackage{braket}

     

    \usepackage{calligra}

    \usepackage{calrsfs}

    \usepackage{mathrsfs}

     

    \usepackage{bm}

    \usepackage{okumacro}

    \pagenumbering{roman}

    \begin{document}

     

    \subsubsection*{3.4.7 物理量の期待値と電子密度解析}

     

    \parindent=1zw

     

    ひとたび密度行列、Fock行列などに対して収束した値が得られてしまえば、波動関数$\ket{\Psi_0}$を使う方法、または計算結果を解析する方法はいくつもある。ここでは、ふつう考えることの多い物理量だけを取り上げる。

     

    $\bm{F}'$の固有値が軌道エネルギー$\varepsilon_i$である。\ruby{Koopmans}{クープマンス}の定理を説明したときに述べたように、占有軌道エネルギー$\varepsilon_a$はイオン化ポテンシャルに対する\ruby{見積}{みつもり}を、仮想軌道エネルギー$\varepsilon_r$は電子親和力に対する見積を与える。$-\varepsilon_a$の値は観測されるイオン化ポテンシャルに対してふつう妥当な近似となるが、$-\varepsilon_r$は電子親和力の定性的な理解に対してさえもあまり役に立たない。

     

    全電子エネルギーは期待値$E_0=\braket{\Psi_0|\mathcal{H}|\Psi_0}$であって、いままで何度も見たように

    $$E_0=2\sum_a^{N/2}h_{aa}+\sum_a^{N/2}\sum_b^{N/2}2J_{ab}-K_{ab}\eqno(3.181)$$

    によって与えられる。Fock演算子の定義式(3.147)から

    $$\varepsilon_a=f_{aa}=h_{aa}+\sum_b^{N/2}2J_{ab}-K_{ab}\eqno(3.182)$$

    が得られるので、エネルギーを

    $$E_0=\sum_a^{N/2}(h_{aa}+f_{aa})=\sum_a^{N/2}(h_{aa}+\varepsilon_a)\eqno(3.183)$$

    と書くことができる。これは役に立つ結果であって、分子軌道に対する基底関数系による展開式(3.133)をこの式に代入すると、SCFの繰返しの手続の各回において計算された量から、ただちにエネルギー

    $$E_0=\frac{1}{2}\sum_\mu\sum_\nu P_{\nu\mu}(H_{\mu\nu}^{\rm core}+F_{\mu\nu})\eqno(3.184)$$

    が得られる。

     

    \hrulefill

     

    $\bm{F}$をつくるのに用いたのと同じ行列$\bm{P}$を使って式(3.184)から$E_0$を計算すると、$E_0$は繰返しの各段階で真のエネルギーに対する上限となっていて、これは収束値に向かって上方から単調に下がっていくのがふつうである。電子エネルギー$E_0$に核間反発を加えると、全エネルギー

    $$E_{\rm tot}=E_0+\sum_A\sum_{B>A}\frac{Z_AZ_B}{R_{AB}}\eqno(3.185)$$

    が得られる。これは通常最も大切な量であって、$E_{\rm tot}$を最小にするものが計算で予測される分子の平衡核配置なので、分子構造の決定に特に重要である。

     

    双極子能率、\ruby{四極子}{しきょくし}能率、核における電場勾配、反磁性化率といった、分子波動関数から計算される分子の諸性質の大部分は、1電子演算子の和

    $$\mathcal{O}_1=\sum_{i=1}^Nh(i)\eqno(3.186)$$

    によって記述される。ここで、一般に$h(i)$は核-1電子ハミルトニアンではなく、1個の電子の座標だけに依存する任意の演算子を意味する。行列要素に対する規則から、これら1電子演算子の期待値はつねに

    $$\braket{\mathcal{O}_1}=\braket{\Psi_0|\mathcal{O}_1|\Psi_0}=\sum_a^{N/2}(\psi_a|h|\psi_a)=\sum_{\mu\nu}P_{\mu\nu}(\nu|h|\mu)\eqno(3.187)$$

    の形で与えられる。したがって密度行列以外には、1電子積分$(\mu|h|\nu)$を計算するだけですむ。双極子能率の例について、計算を具体的に行ってみよう。

     

    電荷$q_i$が位置$\bm{r}_i$にある系の双極子能率は古典的には

    $$\bm{\mu}=\sum_iq_i\bm{r}_i\eqno(3.188)$$

    と定義される。対応する量子力学的計算の定義は、分子の場合

    $$\bm{\mu}=\braket{\Psi_0|-\sum_{i=1}^N\bm{r}_i|\Psi_0}+\sum_AZ_A\bm{R}_A\eqno(3.189)$$

    である。この式は、第1項の電荷$-$1をもった電子の(量子力学的)寄与と第2項の電荷$Z_A$をもつ核の(古典的)寄与からなる。電子双極子演算子は1電子演算子の和、$-\sum\limits_{i=1}^N\bm{r}_i$である。したがって、式(3.187)を用いると

    $$\bm{\mu}=-\sum_\mu\sum_\nu P_{\mu\nu}(\nu|\bm{r}|\mu)+\sum_AZ_A\bm{R}_A\eqno(3.190)$$

    を得る。これはベクトル式であって、たとえば$x$成分は

    $$\mu_x=-\sum_\mu\sum_\nu P_{\mu\nu}(\nu|x|\mu)+\sum_AZ_AX_A\eqno(3.191)$$

    で与えられる。双極子能率を計算するには、$\bm{P}$のほかに$x$成分の双極子積分

    $$(\nu|x|\mu)=\int d\bm{r}_1\phi_\nu^*(\bm{r}_1)x_1\phi_\mu(\bm{r}_1)\eqno(3.192)$$

    および$y$と$z$成分だけが必要である。

     

    空間のある領域に1個の電子を見いだす確率をあらわしている電荷密度

    $$\rho(\bm{r})=\sum_\mu\sum_\nu P_{\mu\nu}\phi_\mu(\bm{r})\phi_\nu^*(\bm{r})\eqno(3.193)$$

    は、分子の任意の断面での等高線図によって図示されるのがふつうである。分子内のある原子(あるいは核)に属する電子の数を定義する方法は1つには決められない。それにもかかわらず分子内の電子を原子に振り分けて考える電子密度解析を行うと役に立つ場合がある。

    $$N=2\sum_a^{N/2}\int d \bm{r}|\psi_a(\bm{r})|^2\eqno(3.194)$$

    において、全電子は分子軌道あたり2個ずつ振り分けられているので、式(3.194)に$\psi_a$の基底関数系による展開を代入すると

    $$N=\sum_\mu\sum_\nu P_{\mu\nu}S_{\nu\mu}=\sum_\mu(\bm{PS})_{\mu\mu}={\rm tr}\bm{PS}\eqno(3.195)$$

    を得る。ここで$(\bm{PS})_{\mu\mu}$を$\phi_\mu$に属する電子の個数と解釈することができる。これが、Mullikenの電子密度解析と呼ばれるものである。基底関数が原子核を中心とすると仮定すると、分子内のある原子に属する電子の個数は、その原子に中心を置くすべての基底関数についての和を取ることによって得られる。ある原子が帯びている正味の電荷

    $$q_A=Z_A-\sum_{\mu\in A}(\bm{PS})_{\mu\mu}\eqno(3.196)$$

    で与えられる。ここで、$Z_A$は原子核$A$の電荷である。和の添字は$A$に中心を置く基底関数についてだけ和を取ることを示している。

     

    定義(式(3.195))が原子に属する電子数のただ1つの定義ではないことは明らかである。tr$\bm{AB}={\rm tr}\bm{BA}$であるので

    $$N=\sum_\mu(\bm{S}^\alpha\bm{PS}^{1-\alpha})_{\mu\mu}\eqno(3.197)$$

    が任意の$\alpha$に対して成り立つ。$\alpha=1/2$だとすると

    $$N=\sum_\mu(\bm{S}^{1/2}\bm{PS}^{1/2})_{\mu\mu}=\sum_\mu(\bm{P}')_{\mu\mu}\eqno(3.198)$$

    である。ここで、$\bm{P}'$が対称直交化された基底における密度行列

    $$\rho(\bm{r})=\sum_\mu\sum_\nu P'_{\mu\nu}\phi_\mu'(\bm{r})\phi_\nu'^*(\bm{r})\eqno(3.199)$$

    $$\phi_\mu'(\bm{r})=\sum_\nu(\bm{S}^{-1/2})_{\nu\mu}\phi_\nu(\bm{r})\eqno(3.200)$$

    であることを示すことができる。$\bm{P}'$の対角要素は\ruby{L\"{o}wdin}{レフディン}の電子密度解析による原子$A$の正味の電荷

    $$q_A=Z_A-\sum_{\mu\in A}(\bm{S}^{1/2}\bm{PS}^{1/2})_{\mu\mu}\eqno(3.201)$$

    に用いられる。

     

    \hrulefill

     

    これらの電子密度解析の方法は、いずれもこれが唯一正しいと主張できるものではないが、各分子に同じ型の基底関数系を用いて、異なった分子間の性質を比較する際にしばしば有用である。このとき用いる基底関数系は、“均衡が取れている”ことが必要である。すべての基底関数を1つの中心上においても、たとえばH$_2$Oの計算で酸素原子上にすべての関数を置くようなことをしても、基底関数を完全系にすることは可能である。この場合、電子密度解析は全電子が酸素原子の上にあり水素原子は裸であるという結果を与える。この例はどんな電子密度解析法を用いるにしても、その結果に物理的な意味を与える際には注意が必要であるということを意味している。

     

    \end{document}