Master3’s blog

LaTeXやExcelVBAなどの作例集

LaTeX作例26(3.8.1 開殻 Hartree-Fock 法:非制限スピン軌道)

  • 量子化学に関する本を引用し、僕が書いたLaTeXの作例を紹介します
  • ポイントとしては、場合分けの記法casesが登場します(式3.309)
  • プリアンブルは全部コピペして使ってるので、かなり余計なものも混ざってます。すいません
  • パッケージは基本的にデフォルトで入ってるやつが使われていると思います(たぶん)
  • ページ番号は原典と異なります
  • 『新しい量子化学―電子構造の理論入門』

    出版社 ‏ :  東京大学出版会 (1987/7/1)
  • 発売日 ‏ :  1987/7/1
  • 言語 ‏ :  日本語
  • 単行本 ‏ :  303ページ
  • ISBN-10 ‏ :  4130621114
  • ISBN-13 :  978-4130621113
  • [http://:title]

    3.8.1.tex - Google ドライブ

  • \documentclass{jsarticle}

    \usepackage{mathrsfs}

    \usepackage[dvipdfmx]{graphicx}

    \usepackage{parskip}

    \usepackage{indentfirst}

    \usepackage{amsmath,amssymb}

    \usepackage{braket}

    \usepackage{otf}

     

    \usepackage{calligra}

    \usepackage{calrsfs}

    \usepackage{mathrsfs}

     

    \usepackage{bm}

    \usepackage{okumacro}

    \begin{document}

     

    \section*{3.8 非制限開殻Hartree-Fock法:\ruby{Pople}{ポープル}-\ruby{Nesbet}{ネスベット}の方程式}

     

    \parindent=1zw

     

    この章のはじめでは、スピン軌道に特定の形を指定することなしにHartree-Fockの方程式を導き、その一般的な諸性質について論じた。ついで、制限つきスピン軌道の組を導入し、その後は

    $$\ket{\Psi_{\rm RHF}}=\ket{\psi_1\bar{\psi_1}\cdots}\eqno(3.306)$$

    の型の制限つき閉殻計算のみに話を限ってきた。しかし、あらゆる分子、また閉殻分子であってもそのすべての状態が閉殻軌道に入った電子の対によって表現されうるわけではないのは明らかで、ここで先に得た閉殻系に対する定式化を、分子が1つあるいは複数の開殻(不対)電子をもつような場合に対応できるよう一般化しておく必要がある。たとえば

    $$\ket{\Psi_{\rm UHF}}=\ket{\psi_1^\alpha\bar{\psi}_1^\beta\cdots}\eqno(3.307)$$

    の型の非制限波動関数を考えなければならないのである。前の章(2.5節)で開殻行列式について予備的な説明はしておいたので、ここではまず非制限計算に用いるSCF方程式を導くことにする。

     

    開殻問題を扱うときにふつう用いられる方法は2つある。制限つき開殻Hartree-Fock法と、非制限開殻Hartree-Fock法である。制限つき開殻の定式化では、開殻軌道に入れなければならぬ電子を除くすべての電子は閉殻軌道に入れる。この方法の利点は、そうして得た波動関数がスピン演算子$\mathcal{S}^2$の固有関数となることである。難点は、対で軌道に入るという束縛条件が変分エネルギーを持ち上げてしまうことである。それに加えて、制限つき開殻Hartree-Fock法によると、開殻および開殻軌道の空間部分を定める方程式は、非制限Hartree-Fock法の空間部分を定める方程式よりもいささか複雑になり簡明さを失ってしまう。そこで開殻系を扱うにあたっては、より簡潔でかつ一般的な非制限計算に重点を置くことにする。

     

    前に示したように、開殻種に解離していくH$_2$のような分子に対する制限つきHartree-Fockの描像は、大きな結合長のところでは不適切である。この問題は、核間距離の大きなところで非制限波動関数を用いることによってある程度は解決することができる。“真”の開殻系(2重項、3重項、$\cdots$など)に対する非制限波動関数について述べるとともに、この節では最小基底H$_2$モデルを使って“1重項”解離の問題を調べることにしよう。非制限波動関数を使えば、H$_2$のような閉殻分子の開殻原子への解離を記述することができる。

     

    この節では、まず非制限Hartree-Fock法の空間部分の固有値方程式を導くために、非制限スピン軌道を導入する。ついで、基底関数系を導入し、制限つきRoothaanの方程式に似た非制限Pople-Nesbetの行列方程式を導こう。つぎに非制限方程式の解がどんなものかを示すための計算を行う。最後に、解離の問題と、それに対する非制限法による解について議論する。

     

    \subsection*{3.8.1 開殻Hartree-Fock法:非制限スピン軌道}

     

    スピン軌道に関するHartree-Fock固有値方程式の一般形は

    $$f(1)\chi_i(1)=\varepsilon_i\chi_i(1)\eqno(3.308)$$

    である。ここでの私たちの目的は、スピン軌道$\{\chi_i\}$にすぐ下で示す非制限系(式(3.309))を与え、そこに出てくる空間軌道を定める方程式を式(3.308)から導出することである。そのために用いる手続は、3.4.1節で制限スピン軌道を定める空間部分方程式を導いた際のものとよく似ているので、導出の詳細をすべて繰り返すことはしない。

     

    制限スピン軌道を与えた式(3.110)と同じように、非制限スピン軌道につぎのような形を与える。

    $$\chi_i(\bm{x})=

    \begin{cases}

    \psi_j^\alpha(\bm{r})\alpha(\omega)\\

    \psi_j^\beta(\bm{r})\alpha(\omega)

    \end{cases}\eqno(3.309)$$

    つまり、$\alpha$スピンをもった電子は空間軌道の組$\{\psi_j^\alpha|j=1,\;2,\cdots,K\}$で記述され、$\beta$スピンをもった電子は空間軌道の組$\{\psi_j^\beta|j=1,\;2,\cdots,K\}$で記述される。前に見た制限つきの場合では、$\psi_j^\alpha=\psi_j^\beta=\psi_j$としていた。$\alpha$スピンをもった電子と$\beta$スピンをもった電子が異なる空間関数によって表現されるようにしたことになる。

     

    $\{\psi_j^\alpha\}$と$\{\psi_j^\beta\}$を定める空間部分の方程式を導くためには、スピン軌道$\{\chi_i\}$を与えた式(3.309)を一般的なHartree-Fock方程式(3.308)に代入し、スピン変数$\omega$に関する積分を行ってこれを消去しなければならない。簡単化のために、$\psi_j^\alpha$を定める方程式のみに話をしぼり、$\psi_j^\beta$を定めるもう一方の方程式は$\alpha$スピンと$\beta$スピンの対称性を使って書き下すだけにする。式(3.308)に式(3.309)を代入すると

    $$f(1)\psi_j^\alpha(\bm{r}_1)\alpha(\omega_1)=\varepsilon_i\psi_j^\alpha(\bm{r}_1)\alpha(\omega_1)\eqno(3.310)$$

    が得られる。ここで、$\varepsilon_i$はスピン軌道$\chi_i\equiv\psi_j^\alpha\alpha$のエネルギーである。$\alpha$スピンをもった電子と$\beta$スピンをもった電子は異なった空間部分をもつから、そのエネルギーも異なってくる。上の場合は$\varepsilon_i\equiv\varepsilon_j^\alpha$である。これと同様に、$\beta$スピンをもった電子の軌道エネルギーの組$\{\varepsilon_j^\beta|j=1,\;2,\cdots,\;K\}$もある。方程式

    $$f(1)\psi_j^\alpha(\bm{r}_1)\alpha(\omega_1)=\varepsilon_j^\alpha\psi_j^\alpha(\bm{r}_1)\alpha(\omega_1)\eqno(3.311)$$

    に$\alpha^*(\omega_1)$をかけ、スピン変数について積分すると

    \begin{flalign*}

    &&f^\alpha(1)\psi_j^\alpha(1)&=\varepsilon_j^\alpha\psi_j^\alpha(1)&\text(3.312)\\

    &&f^\beta(1)\psi_j^\beta(1)&=\varepsilon_j^\beta\psi_j^\beta(1)&\text(3.313)

    \end{flalign*}

    を得る。これらが空間軌道$\psi_j^\alpha$と$\psi_j^\beta$を定める方程式である。空間部分のFock演算子

    \begin{flalign*}

    &&f^\alpha(\bm{r}_1)&=\int d\omega_1\alpha^*(\omega_1)f(\bm{r}_,\omega_1)\alpha(\omega_1)&\text(3.314)\\

    &&f^\beta(\bm{r}_1)&=\int d\omega_1\beta^*(\omega_1)f(\bm{r}_,\omega_1)\beta(\omega_1)&\text(3.315)\\

    \end{flalign*}

    によって定義される。

     

    $f(\bm{r}_1,\omega_1)$のスピン軌道に関する定義(式(3.115))を使って積分を実行し、$f^\alpha$と$f^\beta$のあらわな表式を得ることもできる。ここでは、その代わりに任意の非制限行列式であらわされる系のすべての可能な相互作用を考慮することによって、$f^\alpha$と$f^\beta$の表式を書き下すことにする。演算子$f^\alpha(1)$は、$\alpha$スピンをもった電子の運動エネルギー、核からの引力、有効ポテンシャルからなっている。この$\alpha$スピンをもった電子の感じる有効相互作用には、他の$\alpha$スピンをもったすべての電子とのクーロン及び交換相互作用に加えて、$\beta$スピンをもった電子とのクーロン相互作用が含まれる。したがって

    $$f^\alpha(1)=h(1)+\sum_a^{N^\alpha}\left[J_a^\alpha(1)-K_a^\alpha(1)\right]+\sum_a^{N^\beta}J_a^\beta(1)\eqno(3.316)$$

    と書ける。この式の2つの和は、$\alpha$スピンをもった電子に占有された$N^\alpha$個の軌道$\psi_a^\alpha$に関するものと、$\beta$スピンをもった電子に占有された$N^\beta$個の軌道$\psi_a^\beta$に関するものである。運動エネルギーと核からの引力はスピンに依存しないので、$h(1)$は制限つきの場合の対応する演算子と同じである。$\alpha$スピンをもった電子は、$\psi_a^\alpha$軌道を占有する$N^\alpha$個の$\alpha$スピンをもった各電子からくるクーロンポテンシャル$J_a^\alpha$と交換ポテンシャル$-K_a^\alpha$に加えて、$\psi_a^\beta$軌道を占有する$N^\beta=N-N^\alpha$個の$\beta$スピンをもった各電子からのクーロンポテンシャル$J_a^\beta$を感じる。上の式の$N^\alpha$個の軌道$\psi_a^\alpha$に関する和は、形式的には1つの$\alpha$電子とそれ自身との相互作用を含んでいる。しかし

    $$\left[J_a^\alpha(1)-K_a^\alpha(1)\right]\psi_a^\alpha(1)=0\eqno(3.317)$$

    なので、この自己相互作用は除去される。$\beta$スピンをもった電子に関する、対応するFock演算子

    $$f^\beta(1)=h(1)+\sum_a^{N^\beta}\left[J_a^\beta(1)-K_a^\beta(1)\right]+\sum_a^{N^\alpha}J_a^\alpha(1)\eqno(3.318)$$

    である。

     

    非制限のクーロン及び交換演算子は、前に行った制限つきクーロン及び交換演算子の定義(式(3.124))と(式(3.125))と同じように定義することができる。すなわち

    $$J_a^\alpha(1)=\int d\bm{r}_2\psi_a^{\alpha^*}(2)r_{12}^{-1}\psi_a^\alpha(2)\eqno(3.319)$$

    \begin{flalign*}

    &&K_a^\alpha(1)\psi_i^\alpha(1)&=\left[\int d\bm{r}_2\psi_a^{\alpha^*}(2)r_{12}^{-1}\psi_i^\alpha(2)\right]\psi_a^\alpha(1)&\\

    &&&=\left[\int d\bm{r}_2\psi_a^{\alpha^*}(2)r_{12}^{-1}\mathcal{P}_{12}\psi_a^\alpha(2)\right]\psi_i^\alpha(1)&\text(3.320)

    \end{flalign*}

    である。$J_a^\beta$と$K_a^\beta$はこれと全く同じようにして定義できる。

     

    2つのFock演算子$f^\alpha$と$f^\beta$の定義(式(3.316)と式(3.318))を見ると、2つの微積分方程式(3.312)と式(3.313)は連立しており、独立に解くわけにはいかないことがわかる。すなわち、$f^\alpha$は$J_a^\beta$を通して占有$\beta$軌道$\psi_a^\beta$に依存し、$f^\beta$は$J_a^\alpha$を通して占有$\alpha$軌道$\psi_a^\alpha$に依存している。したがって、この2つの方程式は連立させて反復的に解かなければならない。

     

    \hrulefill

     

    非制限Hartree-Fock方程式を導出したので、これを使って非制限軌道エネルギー、非制限全エネルギーなどに対する表式を書き下すことができる。最初に、2,3の術語を定義しておかなければならない。非制限軌道$\psi_i^\alpha$あるいは$\psi_i^\beta$のどちらかにある電子の運動エネルギーと核からの引力は期待値

    $$h_{ii}^\alpha=(\psi_i^\alpha|h|\psi_i^\alpha)\hspace{5mm}{\rm or}\hspace{5mm}h_{ii}^\beta=(\psi_i^\beta|h|\psi_i^\beta)\eqno(3.321)$$

    である。また、$\psi_i^\alpha$にある電子と、$\psi_i^\beta$にある電子とのクーロン相互作用は

    $$J_{ij}^{\alpha\beta}=J_{ji}^{\beta\alpha}=(\psi_i^\alpha|J_j^\beta|\psi_i^\alpha)=(\psi_j^\beta|J_i^\alpha|\psi_j^\beta)=(\psi_i^\alpha\psi_i^\alpha|\psi_j^\beta\psi_j^\beta)\eqno(3.322)$$

    である。これに対して、同じスピンをもった電子間のクーロン相互作用は

    $$J_{ij}^{\alpha\alpha}=(\psi_i^\alpha|J_j^\alpha|\psi_i^\alpha)=(\psi_j^\alpha|J_i^\alpha|\psi_j^\alpha)=(\psi_i^\alpha\psi_i^\alpha|\psi_j^\alpha\psi_j^\alpha)\eqno(3.323)$$

    および

    $$J_{ij}^{\beta\beta}=(\psi_i^\beta|J_j^\beta|\psi_i^\beta)=(\psi_j^\beta|J_i^\beta|\psi_j^\beta)=(\psi_i^\beta\psi_i^\beta|\psi_j^\beta\psi_j^\beta)\eqno(3.324)$$

    となる。平行スピンをもった電子間の交換相互作用は

    $$K_{ij}^{\alpha\alpha}=(\psi_i^\alpha|K_j^\alpha|\psi_i^\alpha)=(\psi_j^\alpha|K_i^\alpha|\psi_j^\alpha)=(\psi_i^\alpha\psi_j^\alpha|\psi_j^\alpha\psi_i^\alpha)\eqno(3.325)$$

    および

    $$K_{ij}^{\beta\beta}=(\psi_i^\beta|K_j^\beta|\psi_i^\beta)=(\psi_j^\beta|K_i^\beta|\psi_j^\beta)=(\psi_i^\beta\psi_j^\beta|\psi_j^\beta\psi_i^\beta)\eqno(3.326)$$

    である。当然のことながら、反平行スピンをもった電子間に交換相互作用はない。

     

    これで、非制限全エネルギーは、これに寄与する項をすべて考えれば書き下すことができて

    \begin{flalign*}

    &&E_0=&\sum_a^{N^\alpha}h_{aa}^\alpha+\sum_a^{N^\beta}h_{aa}^\beta+\frac{1}{2}\sum_a^{N^\alpha}\sum_b^{N^\beta}(J_{ab}^{\alpha\alpha}+K_{ab}^{\alpha\alpha})&\\

    &&&+\frac{1}{2}\sum_a^{N^\beta}\sum_b^{N^\beta}(J_{ab}^{\beta\beta}-K_{ab}^{\beta\beta})+\sum_a^{N^\alpha}\sum_b^{N^\beta}J_{ab}^{\alpha\beta}&\text(3.327)

    \end{flalign*}

    となる。上限が$N^\alpha$の和は占有軌道$\psi_a^\alpha$あるいは$\psi_b^\alpha$について取る。$\beta$スピンをもった電子に占有される軌道についての和もこれと同様にとる。3番目と4番目の項についている1/2の因子は、和の取り方に制限をつけていないことからくる二重勘定を防ぐためである。式(3.323)から式(3.326)までを使うと確かめられるように、$J_{aa}^{\alpha\alpha}-K_{aa}^{\alpha\alpha}=J_{aa}^{\beta\beta}-K_{aa}^{\beta\beta}=0$だから、自己相互作用はあらわれない。

     

    \hrulefill

     

    \end{document}

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