Master3’s blog

LaTeXやExcelVBAなどの作例集

LaTeX作例31(3.8.6 非制限計算の具体例)

  • 量子化学に関する本を引用し、僕が書いたLaTeXの作例を紹介します
  • ポイントとしては、ギリシャ文字の大文字が登場します。小文字との違いは、コマンドの最初のアルファベットを大文字にするか小文字にするかだけの違いなんですね!
  • 花文字のSも登場します!
  • プリアンブルは全部コピペして使ってるので、かなり余計なものも混ざってます。すいません
  • パッケージは基本的にデフォルトで入ってるやつが使われていると思います(たぶん)
  • ページ番号は原典と異なります
  • 『新しい量子化学―電子構造の理論入門』

    出版社 ‏ :  東京大学出版会 (1987/7/1)
  • 発売日 ‏ :  1987/7/1
  • 言語 ‏ :  日本語
  • 単行本 ‏ :  303ページ
  • ISBN-10 ‏ :  4130621114
  • ISBN-13 :  978-4130621113
  • [http://:title]

    drive.google.com

  • \documentclass{jsarticle}

    \usepackage{mathrsfs}

    \usepackage[dvipdfmx]{graphicx}

    \usepackage{parskip}

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    \usepackage{braket}

    \usepackage{otf}

     

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    \usepackage{mathrsfs}

     

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    \usepackage{okumacro}

    \begin{document}

     

    \subsection*{3.8.6 非制限計算の具体例}

     

    \parindent=1zw

     

    非制限波動関数の興味深い例として、メチルラジカルCH$_3$がある。この分子は結合角が120°の平面形で、D$_{3h}$の対称性をもつ。CHの核間距離は2.039 a.u.であるとする。このラジカルの電子構造の最も単純な記述は、図3.13にある、制限つきHartree-Fock法によるものである。不対電子は、最小基底関数を用いた記述では、炭素上の純粋な2$p$軌道である開殻$\pi$軌道に入っている。残りの電子は対をなして$\sigma$軌道を占有している。この制限つきHartree-Fock法による記述では、スピン密度$\rho^S(\bm{r})$は、$\pi$軌道が分子平面上で節をもつのでそこでゼロである以外は、どこでも正である。$\sigma$電子はすべて対をなしているから、スピン密度はちょうど

    $$\rho^S(\bm{r})=|\psi_\pi(\bm{r})|^2\eqno(3.353)$$

    になる。ここで$\psi_\pi$は不対電子の入っている$\pi$分子軌道である。

     

    上述のきわめて単純な記述は、実験の結果を説明できない。メチルラジカルに対する電子スピン共鳴(ESR)の実験によって、水素原子核と炭素原子核の結合定数$a^{\rm H}$と$a^{\rm C}$が測定される。これらの結合定数はそれぞれの核の位置のスピン密度を直接反映している。

    \begin{flalign*}

    &&a^{\rm H}(ガウス)&=1592\rho^S(\bm{R}_{\rm H})&\text(3.354)\\

    &&a^{\rm C}(ガウス)&=400.3\rho^S(\bm{R}_{\rm C})&\text(3.355)

    \end{flalign*}

    $a^{\rm H}$と$a^{\rm C}$の実験的測定は、スピン密度の大きさのみではなくその符号も与えてくれる。H原子核上のスピン密度は負、C原子核上のスピン密度は正であることが知られている。残念ながら、制限つきHartree-Fock法による記述によると、結合定数$a^{\rm H}$と$a^{\rm C}$はともにゼロになってしまう。分子が振動して、一時的にでも曲がったC$_{3v}$の核配置をもつとすると、この制限つきの方法による記述でも核の位置におけるスピン密度がゼロでない値をもつようになる。しかし、これらのスピン密度と、それから得られる結合定数はつねに正の値をもつはずである。したがって、実験で得られる水素原子核の位置における負のスピン密度は、制限つきHartree-Fock法による記述では説明できない。

     

    この問題に定性的に正しい結果を与える最も簡単な方法は、非制限Hartree-Fock法による記述を行うことである。図3.13に示すような$\sigma$軌道に対をなしておさまっている2個の電子は、それぞれ、不対電子と異なった相互作用をもつ。すなわち、$\alpha$スピンをもった電子は不対電子との間でクーロン相互作用と交換相互作用をもつのに対し、$\beta$スピンをもった電子ではクーロン相互作用をもつのみである。したがって、$\sigma$系の$\alpha$電子と$\beta$電子が異なったエネルギーをもち、異なった空間軌道を占めると考えるのには十分な理由がある。Pople-Nesbetの方程式を用いて電子が対をなすという束縛を緩めてやれば、図3.14に示すような非制限解が見つけられる。この非制限波動関数では$\sigma$電子は対をなすことにはならず、$\sigma$系の正味のスピン密度が炭素と水素の原子核の位置ではゼロでない値をもつことになる。非制限計算(表3.26)は、図にも示したように、スピン密度が炭素原子核上では正、水素原子核上では負であることを示している。この結果はふつう2つの規則を使って説明されている。1つは、同じ原子上にある複数の電子の間ではスピンが平行になる傾向があるという“原子内のHundの規則”、もう1つは互いに重なり合って化学結合をつくる軌道に入っている電子のスピンは反平行になろうとするというもので、水素原子核の近傍における負のスピン密度はこれら2つの規則を使うと説明できる。

     

    CH$_3$の超微細結合定数に対する非経験的計算の結果を表3.26に挙げる。炭素原子上の正のスピン密度、水素原子上の負のスピン密度という定性的に正しい結果は得られた。しかし、スピン密度の絶対値が大きすぎる。6-31G**基底関数系では、実験値の約2倍になっている。さらに規模の大きい計算を行ってみないと、誤差の原因が基底関数系にあるのか、相関を無視することにあるのかを決めるのはむずかしい。私たちの使っている標準的な基底関数系は、主に化学結合に関する諸性質を記述するために導かれたものであり、核の近傍では適当ではないのかも知れない。特にGauss型関数は、原点において貧弱な振舞を示すことが知られている。また、ここで用いた基底関数系は、炭素の内殻に対してはただ1つの関数しか含んでいない。

     

    表には$\mathcal{S}^2$の期待値も挙げておいた。非制限計算の欠点の1つは、純粋なスピン状態にならないことである。メチルラジカルの基底状態は、$\braket{\mathcal{S}^2}=S(S+1)=\frac{3}{4}$の2重項である。ところが、非制限計算は、2.5節で議論した4重項、6重項などが少量混入した2重項波動関数をつくり出す。しかし$\mathcal{S}^2$の期待値は正確な値3/4に近く、高スピン状態の混入が大きくないことを示している。

     

    \hrulefill

     

    以前に、N$_2$の第1、第2イオン化ポテンシャルの計算にKoopmansの定理を用いた。そのときに見たように、Hartree-Fock極限あるいは私たちの用いている中での最良の基底関数系(6-31G*)による計算は、N$_2^+$の$^2\Pi_u$状態のエネルギーがN$_2^+$の$^2\Sigma_g$状態より低くなるという誤った結果を与える。すなわち、これらの計算によればN$_2$の最高占有軌道は3$\sigma_g$軌道ではなくて1$\pi_u$軌道となる。Koopmansの定理がこの誤った予測を与える理由は2つ考えられる。それは、相関を無視していることと緩和を無視していることである。この2つのうち、後者の影響はN$_2^+$の$^2\Pi_u$と$^2\Sigma_g$状態のHartree-Fock計算を実行すれば調べることができる。Koopmansの定理による計算では、これら2つの状態の軌道はN$_2$の基底状態と変わらないと仮定されている。N$_2^+$のこれら2つの2重項状態に対して別々に非制限計算を実行すると、軌道のそれぞれの最適な形への緩和を許すことになる。そこで、N$_2$の基底状態の制限法による全エネルギーから、N$_2^+$イオンのそれぞれの非制限法による全エネルギーを引いてイオン化ポテンシャルを得ることができる。

     

    表3.27に、N$_2$の$^1\Sigma_g$状態と、N$_2^+$の$^2\Sigma_g$および$^2\Pi_u$状態に対する6-31G*計算の結果を示す。垂直イオン化ポテンシャルの実験値との比較のために、計算はすべてN$_2$の基底状態の平衡核配置($R=2.074$ a.u.)で行われた。これらの計算でも$^2\Pi_u$状態のエネルギーは$^2\Sigma_u$状態よりも低くなり、実験と一致しない。これは、N$_2$のイオン化ポテンシャルに関するKoopmansの定理と実験との定性的な不一致が、相関効果の取り込みの欠如によるものであることを示している。後に相関効果を取り込むことによって、このことが確認できる。

     

    非経験的な非制限計算の最後の例はO$_2$である。この分子は不対スピンをもち、常磁性を示す。分子軌道法の最初の鮮やかな成功は、偶数個の電子をもったO$_2$がどうして不対電子をもつかを説明したことであった。等核2原子分子の分子軌道は$1\sigma_g,\;1\sigma_u,\;2\sigma_g,\;2\sigma_u,\;(3\sigma_g,\;1\pi_u),\;1\pi_g,\;3\sigma_u$の順に並んでいる。O$_2$の最後の2個の電子は、2重に縮退した反結合性の$1\pi_g$軌道に入る。Hundの規則によれば、これら2個の電子は交換相互作用でエネルギーが下がるようにスピンが平行になって別々の縮退した1$\pi_g$軌道に入り、$^3\Sigma_g^-$状態が導かれる。結合長2.281 a.u.のO$_2$に対する、6-31G*非制限計算によって得た占有軌道の軌道エネルギーを図3.15に示した。

    1$\pi_g$軌道の“開殻”$\alpha$電子が、同じスピンをもった電子との間だけに存在する交換相互作用によって、$\beta$軌道に比べて$\alpha$軌道を“押し下げて”(安定化して)いる。制限つきの記述においては、1$\pi_g$以外のすべての占有軌道には電子が対をなして入るように制限されている。1$\pi_u$軌道と3$\sigma_g$軌道の順序が$\alpha$スピンと$\beta$スピンの電子では逆転していることに注意しよう。

     

    つぎの節では、非制限Hartree-Fock法についての議論の仕上げとして、最小基底H$_2$モデルを使い、結合の解離を非制限波動関数によって記述する。

     

    \end{document}