Master3’s blog

LaTeXやExcelVBAなどの作例集

LaTeX作例8(3.4.1 閉殻 Hartree-Fock 法:制限つきスピン軌道)

  • 量子化学に関する本を引用し、僕が書いたLaTeXの作例を紹介します
  • ポイントとしては、筆記体のPが登場します。少し特殊なフォントみたいで、本に書いてあった形と同じものを探すのに結構苦労しました。花文字とかいうフォントだったと思います
  • 上にバーを付けた文字が登場します。\bar{  }のコマンドが一般的ですが、表示されるバーがちょっと短くないですか?本稿では

    \overline{ }を使うことによって、ちょうどいい長さのバーを表示させています。

  • プリアンブルは全部コピペして使ってるので、かなり余計なものも混ざってます。すいません
  • パッケージは基本的にデフォルトで入ってるやつが使われていると思います(たぶん)
  • ページ番号は原典と異なります
  • 『新しい量子化学―電子構造の理論入門』

    出版社 ‏ :  東京大学出版会 (1987/7/1)
  • 発売日 ‏ :  1987/7/1
  • 言語 ‏ :  日本語
  • 単行本 ‏ :  303ページ
  • ISBN-10 ‏ :  4130621114
  • ISBN-13 :  978-4130621113
  • [http://:title]

    drive.google.com

  • \documentclass{jsarticle}

    \usepackage{mathrsfs}

    \usepackage[dvipdfmx]{graphicx}

    \usepackage{parskip}

    \usepackage{indentfirst}

    \usepackage{amsmath,amssymb}

    \usepackage{braket}

     

    \usepackage{calligra}

    \usepackage{calrsfs}

    \usepackage{mathrsfs}

     

    \usepackage{bm}

    \begin{document}

     

    \subsection*{3.4 制限つき閉殻Hartree-Fock法:Roothaan方程式}

     

    \parindent=1zw

     

    この章では、これまで一般的なスピン軌道の組$\{\chi_i\}$を使った定式化という見地からHartree-Fock方程式を論じてきた。この節ではHartree-Fock波動関数の実際の計算を考察する。そのためにはスピン軌道の関数形をもっと具体的にしておかねばならない。前の章では2つの種類のスピン軌道について触れた。1つは制限つきスピン軌道で、$\alpha$(スピン上向き)と$\beta$(スピン下向き)のスピン関数に対して同じ空間関数をもつように制限されている。もう1つは非制限スピン軌道で、$\alpha$と$\beta$に対して異なる空間関数をもってよい。この章の後半で、非制限Hartree-Fock法の定式化と計算のやり方を議論する。この節では、制限つきHartree-Fock波動関数を計算する手続、特に閉殻系の計算を考えることにする。したがって、私たちの考える分子は偶数個$(N)$の電子をもち、すべての電子はスピンが対をなして$n=N/2$個の空間軌道を2重に占有しているとする。これは私たちの議論を閉殻基底状態に制限してしまう。(原理的には、この節で論じられる手続きを使って閉殻の励起状態に対するHartree-Fock解を得ることができる。しかし、励起状態基底状態$\ket{\Psi_0}$と同じ対称性をもつ場合には、SCFの反復計算が基底状態に収束してしまうのを防ぐ一般的な対策はない。)閉殻の基底状態を記述するためには、この章の最後の節で論ずる非制限の定式化を用いる。開殻の励起状態を記述するのにも、非制限Hartree-Fock理論を使う。開殻系の制限つき定式化は、ここで扱う制限つき閉殻系あるいは非制限開殻系の定式化に比べて少々複雑であって、この本では制限つき開殻系Hartree-Fock計算は取り上げない。そうした制限つき開殻系の計算に対する優れた紹介がHurleyの本(1976)に出ている。

    \subsubsection*{3.4.1 閉殻Hartree-Fock法:制限つきスピン軌道}

    制限つきのスピン軌道の組は

    $$\chi_i(\bm{x})=

    \begin{cases}

    \psi_j(\bm{r})\alpha(\omega)\\

    \psi_j(\bm{r})\beta(\omega)

    \end{cases}\eqno(3.110)$$

    の形をもっていて、制限つき閉殻基底状態

    $$\ket{\Psi_0}=\ket{\chi_1\chi_2\cdots\chi_{N-1}\chi_N}=\ket{\psi_1\overline{\psi}_1\cdots\psi_a\overline{\psi}_a\cdots\psi_{N/2}\overline{\psi}_{N/2}}\eqno(3.111)$$

    であらわせる。さて、一般的なスピン軌道を使ったときのHartree-Fock方程式

    $$f(1)\chi_i(1)=\varepsilon_i\chi_i(1)$$

    を、各占有空間分子軌道$\{\psi_a|a=1,\;2,\cdots,\;N/2\}$が2電子に占有されているような空間軌道に対する固有値方程式に変換することを考えよう。スピン軌道から空間軌道に変換するには、2.3.5節に述べたように、スピン関数を積分して消去しなくてはならない。まず、この手法をHartree-Fock方程式

    $$f(\bm{x}_1)\chi_i(\bm{x}_1)=\varepsilon_i\chi_i(\bm{x}_1)\eqno(3.112)$$

    に適用する。スピン軌道$\chi_i(\bm{x}_1)$は$\alpha$スピンか$\beta$スピンをもっている。$\beta$スピンをもつとしても同じ結果が得られるが、ここでは$\alpha$スピンをもつと仮定する。

    $$f(\bm{x}_1)\psi_j(\bm{r}_1)\alpha(\omega_1)=\varepsilon_j\psi_j(\bm{r}_1)\alpha(\omega_1)\eqno(3.113)$$

    ここで、$\varepsilon_j$は空間軌道$\psi_j$のエネルギーで、スピン軌道$\chi_i$のエネルギー$\varepsilon_i$に等しい。左から$\alpha^*(\omega_1)$をかけスピンについて積分すると

    $$\left[\int d\omega_1\alpha^*(\omega_1)f(\bm{x}_1)\alpha(\omega_1)\right]\psi_j(\bm{r}_1)=\varepsilon_j\psi_j(\bm{r}_1)\eqno(3.114)$$

    を得る。先に進むには、式(3.114)の左辺を計算しなくてはならない。スピン軌道によるFock演算子

    $$f(\bm{x}_1)=h(\bm{r}_1)+\sum_c^N\int d\bm{x}_2\chi_c^*(\bm{x}_2)r_{12}^{-1}(1-\mathcal{P}_{12})\chi_c(\bm{x}_2)\eqno(3.115)$$

    と書く。こうすると、式(3.114)は

    \begin{flalign*}

    &&&\left[\int d\omega_1\alpha^*(\omega_1)f(\bm{x}_1)\alpha(\omega_1)\right]\psi_j(\bm{r}_1)\\

    && &=\left[\int\bm{d}\omega_1\alpha^*(\omega_1)h(\bm{r}_1)\alpha(\omega_1)\right]\psi_j(\bm{r}_1)\\

    && &\;\;\;+\left[\sum_c\int\bm{d}\omega_1d\bm{x}_2\alpha^*(\omega_1)\chi_c^*(\bm{x}_2)r_{12}^{-1}(1-\mathcal{P}_{12})\chi_c(\bm{x}_2)\alpha(\omega_1)\right]\psi_j(\bm{r}_1)&\\

    && &=\varepsilon_j\psi_j(\bm{r}_1)&\text(3.116)

    \end{flalign*}

    となる。$f(\bm{r}_1)$を閉殻Fock演算子

    $$f(\bm{r}_1)=\int d\omega_1\alpha^*(\omega_1)f(\bm{x}_1)\alpha(\omega_1)\eqno(3.117)$$

    とすると

    \begin{flalign*}

    &&f(\bm{r}_1)\psi_j(\bm{r}_1)=&h(\bm{r}_1)\psi_j(\bm{r}_1)+\sum_c\int d\omega_1d\bm{x}_2\alpha^*(\omega_1)\chi_c^*(\bm{x}_2)r_{12}^{-1}\chi_c(\bm{x}_2)\alpha(\omega_1)\psi_j(\bm{r}_1)&\\

    && &-\sum_c\int\bm{d}\omega_1d\bm{x}_2\alpha^*(\omega_1)\chi_c^*(\bm{x}_2)r_{12}^{-1}\chi_c(\bm{x}_1)\alpha(\omega_2)\psi_j(\bm{r}_2)&\\

    && &=\varepsilon_j\psi_j(\bm{r}_1)&\text(3.118)

    \end{flalign*}

    である。ここで、$h(\bm{r}_1)$を含んだ表式において$d\omega_1$に関する積分を行い、$\mathcal{P}_{12}$を使って交換項をあらわに書き下した。さて、いま扱っているのが閉殻系だとすると、占有スピン軌道についての和は$\alpha$スピン関数をもったものについての和と、それと同数の$\beta$スピンをもったものについての和

    $$\sum_c^N\to\sum_c^{N/2}+\sum_{\overline{c}}^{N/2}\eqno(3.119)$$

    からなる。したがって

    \begin{flalign*}

    &&f(\bm{r}_1)\psi_j(\bm{r}_1)&=h(\bm{r}_1)\psi_j(\bm{r}_1)&\\

    && &+\sum_c^{N/2}\int d\omega_1d\omega_2d\bm{r}_2\alpha^*(\omega_1)\psi_c^*(\bm{r}_2)\alpha^*(\omega_2)r_{12}^{-1}\psi_c(\bm{r}_2)\alpha(\omega_2)\alpha(\omega_1)\psi_j(\bm{r}_1)&\\

    && &+\sum_c^{N/2}\int d\omega_1d\omega_2d\bm{r}_2\alpha^*(\omega_1)\psi_c^*(\bm{r}_2)\beta^*(\omega_2)r_{12}^{-1}\psi_c(\bm{r}_2)\beta(\omega_2)\alpha(\omega_1)\psi_j(\bm{r}_1)&\\

    && &-\sum_c^{N/2}\int d\omega_1d\omega_2d\bm{r}_2\alpha^*(\omega_1)\psi_c^*(\bm{r}_2)\alpha^*(\omega_2)r_{12}^{-1}\psi_c(\bm{r}_1)\alpha(\omega_1)\alpha(\omega_2)\psi_j(\bm{r}_2)&\\

    && &-\sum_c^{N/2}\int d\omega_1d\omega_2d\bm{r}_2\alpha^*(\omega_1)\psi_c^*(\bm{r}_2)\beta^*(\omega_2)r_{12}^{-1}\psi_c(\bm{r}_1)\beta(\omega_1)\alpha(\omega_2)\psi_j(\bm{r}_2)&\\

    &&=\varepsilon_j\psi_j(\bm{r}_1)&&\text(3.120)

    \end{flalign*}

    となる。さてこれで、$d\omega_1$と$d\omega_2$について積分することができる。式(3.120)の最終項は、スピン関数の規格直交性から消えてしまう。このことは、交換相互作用が並行スピンをもった電子間にだけ存在するという事実の反映である。2つのクーロン項は等しいので

    \begin{flalign*}

    &&f(\bm{r}_1)\psi_j(\bm{r}_1)&=h(\bm{r}_1)\psi_j(\bm{r}_1)+\left[2\sum_c^{N/2}\int d\bm{r}_2\psi_c^*(\bm{r}_2)r_{12}^{-1}\psi_c(\bm{r}_2)\right]\psi_j(\bm{r}_1)&\\

    && &\;\;\;\;-\left[\sum_c^{N/2}\int d\bm{r}_2\psi_c^*(\bm{r}_2)r_{12}^{-1}\psi_j(\bm{r}_2)\right]\psi_c(\bm{r}_1)&\\

    && &=\varepsilon_j\psi_j(\bm{r}_1)&\text(3.121)

    \end{flalign*}

    を得る。したがって、閉殻Fock演算子

    $$f(\bm{r}_1)=h(\bm{r}_1)+\sum_a^{N/2}\int d\bm{r}_2\psi_a^*(\bm{r}_2)(2-\mathcal{P}_{12})r_{12}^{-1}\psi_a(\bm{r}_2)\eqno(3.122)$$

    あるいは、それと同じことだが

    $$f(1)=h(1)+\sum_a^{N/2}2J_a(1)-K_a(1)\eqno(3.123)$$

    の形をもつ。ここで、閉殻クーロン演算子と閉殻交換演算子

    $$J_a(1)=\int d\bm{r}_2\psi_a^*(2)r_{12}^{-1}\psi_a(2)\eqno(3.124)$$

    $$K_a(1)\psi_i(1)=\left[\int d\bm{r}_2\psi_a^*(2)r_{12}^{-1}\psi_i(2)\right]\psi_a(1)\eqno(3.125)$$

    で定義されている。これらの方程式は、クーロン演算子に因子2があらわれている以外は、スピン軌道に対するものと全く同様である。式(3.122)における和は、もちろん$N/2$個の占有軌道$\{\psi_a\}$についてとる。以上より閉殻系の空間軌道に対するHartree-Fock方程式は

    $$f(1)\psi_j(1)=\varepsilon_j\psi_j(1)\eqno(3.126)$$

    となる。

     

    閉殻Hartree-Fockエネルギーは2.3.5節において、スピン軌道から空間軌道への移行の例として導出されている。閉殻行列式

    $$\ket{\Psi_0}=\ket{\psi_1\overline{\psi}_1\cdots\psi_a\overline{\psi}_a\cdots\psi_{N/2}\overline{\psi}_{N/2}}$$

    に対しては、エネルギーは

    \begin{flalign*}

    &&E_0&=\braket{\Psi_0|\mathcal{H}|\Psi_0}=2\sum_a(a|h|a)+\sum_a\sum_b2(aa|bb)-(ab|ba)&\\

    && &=2\sum_ah_{aa}+\sum_a\sum_b2J_{ab}-K_{ab}&\text(3.127)

    \end{flalign*}

    である。残っているのは式(3.72)の軌道エネルギーの表式を閉殻空間軌道を使った形に変換することである。

     

    \hrulefill

     

    Exercise3.9を解いたことによって、興味ある諸量の大部分に対する閉殻系の表式を得たことになる。これから、おなじみの最低基底関数によるH$_2$モデルを使って、これらの諸量を調べていこう。

     

    \end{document}