Master3’s blog

LaTeXやExcelVBAなどの作例集

LaTeX作例16(3.5.2 STO-3G を使った H2 の計算)

  • 量子化学に関する本を引用し、僕が書いたLaTeXの作例を紹介します
  • ポイントとしては、複数行の式を2行ずつ先頭をそろえて表示する記法を用いるところです
  • ニアリーイコール≃の記号も登場します(式(3.226))。
  • プリアンブルは全部コピペして使ってるので、かなり余計なものも混ざってます。すいません
  • パッケージは基本的にデフォルトで入ってるやつが使われていると思います(たぶん)
  • ページ番号は原典と異なります
  • 『新しい量子化学―電子構造の理論入門』

    出版社 ‏ :  東京大学出版会 (1987/7/1)
  • 発売日 ‏ :  1987/7/1
  • 言語 ‏ :  日本語
  • 単行本 ‏ :  303ページ
  • ISBN-10 ‏ :  4130621114
  • ISBN-13 :  978-4130621113
  • [http://:title]

    3.5.2.tex - Google ドライブ

  • \documentclass{jsarticle}

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    \usepackage{mathrsfs}

     

    \usepackage{bm}

    \usepackage{okumacro}

    \begin{document}

     

    \subsection*{3.5.2 STO-3Gを使ったH$_2$の計算}

     

    \parindent=1zw

     

    2.2.5節において、最小基底関数系によるH$_2$モデルを考えたが、それは1個だけの占有分子軌道と仮想分子軌道をもったモデルであった。前節で1 $s$ STO-3G最小基底関数を説明したので、H$_2$の非経験的Hartree-Fock計算を例示する用意が整った。この最小基底のモデルは単純ではあるけれども、さらに大型の基底関数に拡張することは比較的簡単である。また、ここで示そうとしているHartree-Fock理論の性質のほとんどは、基底関数の規模には依存しない。一方、残念なことに、このモデルは単純すぎてSCF手続の反復的な性質は示すことができない。つぎの節では、Hartree-Fock計算の反復的な手続の例を示すために、HeH$^+$の最小基底関数による計算を述べる。

     

    この節では、H$_2$の基底状態に対する制限つき閉殻計算を述べる。あとで見るように、この計算には、長い結合距離において非常に基本的な欠陥が存在する。この章の後半で非制限開殻計算を述べるときに、再びH$_2$の最小基底関数モデルを考え、この欠陥を部分的に補うことにする。後の章でHartree-Fock近似を越えた方法を説明する折にも最小基底関数によるH$_2$モデルをたびたび用い、その際この節で得られた結果が参照される。

     

    3.4.6節に説明したSCF計算の手続にしたがって、まず第1に核配置を選ぶ。座標系を図2.5のように取り、核間距離$|\bm{R}|\equiv|\bm{R}_{12}|$は実験値である1.4 a.u.(ボーア)に等しいと置く。基底関数は標準的なSTO-3G基底関数である$\phi_1$と$\phi_2$の2個の関数からなる。それぞれは軌道指数$\zeta=1.24$をもったSlater関数を最小2乗法で近似した3個の原始Gauss軌道の短縮で、式(3.225)に与えてある。

    \begin{flalign*}

    &&\phi_1(\bm{r})&\simeq(\zeta^3/\pi)^{1/2}e^{-\zeta|\bm{r}-\bm{R}_1|}&\\

    &&\phi_2(\bm{r})&\simeq(\zeta^3/\pi)^{1/2}e^{-\zeta|\bm{r}-\bm{R}_2|}&\\

    &&\zeta&=1.24&\text(3.226)

    \end{flalign*}

     

    各基底関数は式(3.225)という定まった関数である。これらの関数はSlater関数に対する近似として求められたものの、いったん基底関数を選んでしまうとHartree-Fock近似以外の近似はいっさいないことを心に留めておくべきであろう。SCF計算の次の段階では、基底関数$\{\phi_\mu\}$についてのすべての積分、すなわち$S_{\mu\nu}$、$H^{\rm core}_{\mu\nu}$および2電子積分$(\mu\nu|\lambda\sigma)$を計算する。これらの積分の計算に必要な公式はすべて付録Aで導かれている。まず重なり積分

    $$S_{\mu\nu}=\int d\bm{r}\phi_\mu^{\rm CGF}(\bm{r}-\bm{R}_A)\phi_\nu^{\rm CGF}(\bm{r}-\bm{R}_B)\eqno(3.227)$$

    を考えよう。上式に一般的な短縮(式(3.212))を代入すると、この積分は原始Gauss軌道についての重なり積分の和となる。すなわち

    \begin{flalign*}

    &&S_{\mu\nu}&=\int d\bm{r}\sum_{p=1}^Ld^*_{p\mu}\phi_p^{\rm GF^*}(\alpha_{p\mu},\bm{r}-\bm{R}_A)\sum_{q=1}^Ld_{q\nu}\phi_q^{\rm GF}(\alpha_{q\nu},\bm{r}-\bm{R}_B)&\\

    && &=\sum_{p=1}^L\sum_{q=1}^Ld^*_{p\mu}d_{q\nu}\int d\bm{r}\phi_p^{\rm GF^*}(\alpha_{p\mu},\bm{r}-\bm{R}_A)\phi_q^{\rm GF}(\alpha_{q\nu},\bm{r}-\bm{R}_B)&\\

    && &=\sum_{p=1}^L\sum_{q=1}^Ld^*_{p\mu}d_{q\nu}S_{pq}&\text(3.228)

    \end{flalign*}

    である。同様のやり方で、付録Aの方法を使って原始Gauss関数についての他の種類の積分を計算しておけば、それらの和をとることにより、式(3.225)のようなある特定の短縮型関数についての積分を求めることができる。最小基底関数によるH$_2$モデルの$R=1.4\;{\rm a.u.}$における関数$\phi_1$と$\phi_2$の重なりは0.6593である。したがって、重なり行列は

    $$\bm{S}=\left(

    \begin{array}{cc}

    1.0&0.6593\\

    0.6593&1.0

    \end{array}

    \right)\eqno(3.229)$$

    となる。結合長が長くなっていくと、重なり$S_{12}$はゼロに近づいていく。$R=0$では重なり$S_{12}$はもちろん1.0である。

     

    \hrulefill

     

    核$-$1電子ハミルトニアンの行列要素$H_{\mu\nu}^{\rm core}$は、運動エネルギーをあらわす$T_{\mu\nu}$と1番目の核による電子のクーロン引力をあらわす($V^1_{\mu\nu}$)および2番目の核によるクーロン引力($V^2_{\mu\nu}$)の和である。付録Aから、これらの積分

    $$\bm{T}=\left(

    \begin{array}{cc}

    0.7600&0.2365\\

    0.2365&0.7600

    \end{array}

    \right)\eqno(3.230)$$

    $$\bm{V}^1=\left(

    \begin{array}{cc}

    -1.2266&-0.5974\\

    -0.5974&-0.6538

    \end{array}

    \right)\eqno(3.231)$$

    $$\bm{V}^2=\left(

    \begin{array}{cc}

    -0.6538&-0.5974\\

    -0.5974&-1.2266

    \end{array}

    \right)\eqno(3.232)$$

    と計算できる。もし水素原子に対する厳密解$(\pi)^{-1/2}e^{-r}$を基底関数として使ったとすると、$T_{11}$は水素原子中の1個の電子の運動エネルギーである0.5に、また$V^1_{11}=V^2_{22}$は水素原子のポテンシャルエネルギー-1.0に等しくなったであろう。ここでの結果は、自由な水素原子の中よりも“より小さい”軌道を与える$\zeta=1.24$という、1よりも大きな軌道指数を用いたことを反映している。したがって、電子は水素原子のときより核に近づいて、ポテンシャルエネルギーにより大きな負の値(-1.2266)をもたらし、また“核に落ち込まないようにより速く運動して”0.5より大きい運動エネルギー(0.7600)をもつことになる。この基底関数による水素原子のエネルギーは、$T_{11}+V^1_{11}=0.7600-1.2266=-0.4666\;{\rm a.u.}$となるが、正確なエネルギーは-0.5 a.u.である。$\phi_1$の中の1個の電子をなんとかして核1の位置に局在化させたとすると、核2に対する引力ポテンシャルは-1/1.4=-0.7143である。このポテンシャルの実際の値は、$R=1.4\;{\rm a.u.}$において、$V^2_{11}=-0.6538$である(図3.4参照)。核間距離$R$が増えていくと、$V^2_{11}$は漸近的に-$1/R$に収束していく。$\bm{T}$と$\bm{V}^{\rm nucl}$の非対角要素には、上記のような簡単な古典的解釈を与えることはできず、これらは結合の根源となる量子力学的効果をあらわしている。核間距離$R$が大きくなると、非対角要素はゼロに近づいていく。

     

    核$-$1電子ハミルトニアン行列は上記の3つの行列の和

    $$\bm{H}^{\rm core}=\bm{T}+\bm{V}^1+\bm{V}^2=\left(

    \begin{array}{cc}

    -1.1204&-0.9584\\

    -0.9584&-1.1204

    \end{array}

    \right)\eqno(3.233)$$

    である。これは、核の場の中の1個の電子、この場合はH$_2^+$に対するハミルトニアン行列になっている。行列固有値問題

    $$\bm{H}^{\rm core}\bm{C}=\bm{SC\varepsilon}\eqno(3.234)$$

    を解くと、H$_2^+$の軌道エネルギーと分子軌道が得られる。たとえば、H$_2$Oのような場合では、H$_2$O$^{9+}$の軌道エネルギーと分子軌道が得られるが、これらに興味がもたれることはまずない。

     

    この最小基底関数モデルにおける2$^4=16$個の可能な2電子積分$(\mu\nu|\lambda\sigma)$の中で、異なる値をもつのは4個だけである。

    \begin{flalign*}

    &&(\phi_1\phi_1|\phi_1\phi_1)&=(\phi_2\phi_2|\phi_2\phi_2)=0.7746\;{\rm a.u.}&\\

    &&(\phi_1\phi_1|\phi_2\phi_2)&=0.5697\;{\rm a.u.}&\\

    &&(\phi_2\phi_1|\phi_1\phi_1)&=(\phi_2\phi_2|\phi_2\phi_1)=0.4441\;{\rm a.u.}&\\

    &&(\phi_2\phi_1|\phi_2\phi_1)&=0.2970\;{\rm a.u.}&\text(3.235)

    \end{flalign*}

    上記以外の積分は、たとえば$(\mu\nu|\lambda\sigma) =(\mu\nu|\sigma\lambda) =(\lambda\sigma|\mu\nu)$のように単に添字を入れ換えるだけで得られる。1中心積分$(\phi_1\phi_1|\phi_1\phi_1)$と$(\phi_2\phi_2|\phi_2\phi_2)$は同じ1 $s$ 軌道中の2電子の電子間反発の平均値をあらわしている。2中心積分$(\phi_1\phi_1|\phi_2\phi_2)$は、中心1のまわりの軌道中の電子と中心2のまわりの軌道中の電子の間の反発である。その値は、$R=1.4$ a.u.においては0.5697 a.u.で、核間距離$R$が増加すると$1/R$に近づいていく。他の2つの積分には古典的な解釈はない。これらは、大きな結合長のところでは、$S_{12}$がゼロに近づくのと同じように、ゼロに近づいていく。基底関数についてのすべての積分を計算してしまえば、先に示した手続、つまり密度行列を初期設定してFock行列をつくり、それを規格直交の基底に対する行列に変換し、変換されたFock行列を対角化する・・・などの一連の手続によってRoothaan方程式を解くことができる。しかしながら、H$_2$に対する最小基底関数モデルはあまりにも簡単なので、Roothaanの方程式の解は単に対称性を考えるだけで決定されてしまい、実際に解く必要はない。正準分子軌道は分子の点群の既約表現の基底となっている。すなわち等核2原子分子に対しては、正準分子軌道が$\sigma_g$、$\sigma_u$、$\pi_g$、$\pi_u$などの対称性をもっている。私たちの最小基底では、分子軌道は2個しかない。エネルギーの低い方が占有分子軌道で、$\sigma_g$対称性をもつ結合性軌道

    $$\psi_1=[2(1+S_{12})]^{-1/2}(\phi_1+\phi_2)\eqno(3.236)$$

    である。仮想分子軌道は、$\sigma_u$対称性の反結合性軌道

    $$\psi_2=[2(1+S_{12})]^{-1/2}(\phi_1-\phi_2)\eqno(3.237)$$

    となる。したがって、この問題に対する係数行列は

    \[

    \bm{C}=\left(

    \begin{array}{cc}

    [2(1+S_{12})]^{-1/2}&[2(1-S_{12})]^{-1/2} \\

    \;[2(1+S_{12})]^{-1/2}&-[2(1-S_{12})]^{-1/2}

    \end{array}

    \right)\eqno(3.238)

    \]

    で、密度行列は

    $$\bm{P}=\left(

    \begin{array}{cc}

    (1+S_{12})^{-1}&(1+S_{12})^{-1}\\

    (1+S_{12})^{-1}&(1+S_{12})^{-1}

    \end{array}

    \right)=(1+S_{12})^{-1}\left(

    \begin{array}{cc}

    1&1\\

    1&1

    \end{array}

    \right)\eqno(3.239)$$

    となる。SCFの手続の初期設定として、上述以外の密度行列を用いて反復計算を行ったとしても、解は対称性によって決められる上述の解に収束してしまう。

     

    \hrulefill

     

    上のExerciseの最後の3問では、最小基底関数を使ったH$_2$の計算結果が、解の組$\{\psi_i\}$についてではなく基底関数$\{\phi_\mu\}$について計算された積分と行列によってあらわされている。実際の計算も$\{\phi_\mu\}$についての行列を用いて行われる。分子軌道$\psi_i$は計算が完了するまではわからない。ところが、SCFの結果について議論するとか、さらに電子相関の効果を取り込む扱いをするためにSCFの結果を使うときには、関数$\{\phi_\mu\}$による基本的な積分を分子軌道$\{\psi_i\}$による積分に変換しておくのが便利である。2つの関数の組の間の関係、すなわち

    $$\psi_i=\sum_{\mu=1}^KC_{\mu i}\phi_\mu\hspace{1cm}i=1,2,\cdots,K\eqno(3.240)$$

    はわかっているので、積分変換はつぎのようになる。

    $$h_{ij}=(\psi_i|h|\psi_j)=\sum_\mu\sum_\nu C^*_{\mu i}C_{\nu j}H^{\rm core}_{\mu\nu}\eqno(3.241)$$

    $$(\psi_i\psi_j|\psi_k\psi_l)=\sum_\mu\sum_\nu\sum_\lambda\sum_\sigma C_{\mu i}^*C_{\nu j}C_{\lambda k}^*C_{\sigma l}(\mu\nu|\lambda\sigma)\eqno(3.242)$$

    式(3.241)の添字が2つの変換は比較的容易で、$K\times K$行列の乗算をすればすむ。しかしながら、2電子積分の、添字が4つの変換は非常に多くの計算時間を要する処理で、この変換を実行するための最適なアルゴリズムを用いても$K^5$回のオーダーの乗算が必要である。この計算量は、SCF計算における他のどの処理段階よりも$K$倍程度多く、実行するのはずっと厄介である。変換された2電子積分が必要とされないのであれば、もちろん変換は行うべきでない。しかしながら、Hartree-Fock近似を越える取扱いの大半の定式化、そしてこの本で考えるそういう理論のすべては、分子軌道についての積分を必要とする。ここで扱っている最小基底関数によるH$_2$モデルについては、当然のことながらこの変換は簡単である。変換された核$-$1電子ハミルトニアンと2電子積分のゼロでない値をもつ要素は

    \begin{align*}

    &h_{11}=(\psi_1|h|\psi_1)=-1.2528\;{\rm a.u.}&&h_{22}=(\psi_2|h|\psi_2)=-0.4756\; {\rm a.u.}\\

    &J_{11}=(\psi_1\psi_1|\psi_1\psi_1)=0.6746\;{\rm a.u.}&&J_{22}=(\psi_2\psi_2|\psi_2\psi_2)=0.6975\;{\rm a.u.}\\

    &J_{12}=(\psi_1\psi_1|\psi_2\psi_2)=0.6636\;{\rm a.u.}&&K_{12}=(\psi_1\psi_2|\psi_2\psi_1)=0.1813\;{\rm a.u.}

    \end{align*}

    となる。前に述べたように、$h_{11}$は$\psi_1$に入っている1電子の運動エネルギーと核の引力で、$h_{22}$は$\psi_{2}$に入っている1電子の運動エネルギーと核の引力、$J_{11}$は$\psi_1$に入っている2個の電子のクーロン相互作用、$J_{22}$は$\psi_2$に入っている2個の電子のクーロン相互作用である。また、$J_{12}$は$\psi_1$中の1個の電子と$\psi_2$中のもう1個の電子とのクーロン相互作用で、$-K_{12}$は$\psi_1$中の電子と$\psi_2$に入っていて同じスピンをもつ電子との交換相互作用である。

     

    変換されたFock行列$f_{ij}=(\psi_i|f|\psi_j)$は、定義により対角行列で、その対角要素は軌道エネルギーに等しい。閉殻軌道エネルギーは、Exercise3.9にあったように

    $$\varepsilon_i=h_{ii}+\sum_b2J_{ib}-K_{ib}\eqno(3.243)$$

    で与えられる。最小基底関数モデルでは、軌道エネルギーは

    \begin{align*}

    &\varepsilon_1=h_{11}+J_{11}=-0.5782\;{\rm a.u.}\tag{3.244}\\

    &\varepsilon_2=h_{22}+2J_{12}-K_{12}=+0.6703\;{\rm a.u.}\tag{3.245}

    \end{align*}

    となる。Koopmansの定理に関連して示したように、$\varepsilon_2$は仮想軌道のエネルギーであって、$(N+1)$電子系の1電子のエネルギーをあらわしており$\varepsilon_2\neq h_{22}+J_{22}$であることに注意しよう。付録Cには、2電子積分$J_{11}$などとともにこれらの軌道エネルギーの値が結合長の関数として与えられている。この章および後の章で示すように、これらの積分値を用いると、H$_2$に対する多電子的な物理量の振舞を結合長の関数として調べることができる。

     

    基底状態の全電子エネルギーは

    $$E_0=2h_{11}+J_{11}=-1.8310\;{\rm a.u.}\eqno(3.246)$$

    である。核間反発を含めた全エネルギーは

    $$E_{\rm tot}=E_0+1/R=-1.1167\;{\rm a.u.}\eqno(3.247)$$

    となる。この基底関数における水素原子のエネルギーは—0.4666 a.u.であるので、この計算で求められるH$_2$の解離エネルギーは$2(-0.4666)+1.1167=0.1835\;{\rm a.u.}\equiv\; 4.99\; {\rm eV}$である。これを、実験による解離エネルギーの値4.75 eVと比較してみると、両者の一致は非常に良い。これは、計算されたH$_2$のエネルギーが正確な値よりもずっと高くても、水素原子の不正確な取扱いがそれを打ち消してしまっていることを示している。

     

    解離エネルギーは実験値とよく一致していたが、解離の問題を完全に調べるためには、ポテンシャル曲面全体を知ることが必要である。核間距離の異なる値に対して上述の計算を繰り返すと図3.5に示されるポテンシャル曲線が得られる。これを\ruby{Kolos}{コロス}と\ruby{Wolniewicz}{ヴォルニェヴィッチ}(W.Kolos and L.Wolniewicz,Improved theoretical ground-state energy of the hydrogen molecule,$J.Chem.Phys.\bm{49}:404(1968)$)の実質的に厳密な結果と比較してみよう。最小基底による制限つきHartree-Fock計算は、$R$が無限大になっても2個の水素原子へは解離していかない。最初はこの結果は驚くべきことに思われるかもしれない。この全く誤った振舞はH$_2$に限ったことではなく、正しい解離生成物が開殻波動関数によってあらわされなければならないような場合には、制限つき閉殻計算は必然的に誤った解離極限を与えてしまう。H$_2$の場合、解離生成物の2個の水素原子である。つまり、1個の電子は1個の陽子のまわりに局在化し、もう1個の電子は離れたところにある別の陽子のまわりに局在化していなくてはならない。しかしながら、制限つき計算においては2個の電子は同じ空間分子軌道$\psi_1$を占有するように強いられている。この分子軌道$\psi_1$は対称性によって決定され、式(3.236)の形をもっている。したがって、結合長に関係なく2個の電子は全く同じ空間波動関数によって記述され、3次元空間内で同じ確率密度をもつことになる。こうした記述は、孤立している2つの水素原子に対しては不適切である。したがって、電子が2個ずつ対をつくって分子軌道を占有するように制限した制限つき閉殻Hartree-Fock計算は、解離生成物がともに閉殻系でない限り適切に解離を記述することはできない。

     

    Exercise3.25とExercise3.27の結果を用いて、解離の際の振舞を解析的に調べることができる。$R\to \infty$とすると、図3.4の2中心核引力はゼロに近づき、$H_{11}^{\rm core}\to T_{11}+V_{11}^1$となって、この基底関数における1個の水素原子のエネルギー($-$0.4666)に一致する。1中心電子間反発積分$(\phi_1\phi_1|\phi_1\phi_1)$を除く他の積分は$R\to\infty$ではゼロになる。したがって

    \begin{flalign*}

    &&\underset{R\to\infty}{\rm limit}\;E_{\rm tot}(R)&=\underset{R\to\infty}{\rm limit}\;2H_{11}^{\rm core}+\frac{1}{2}(\phi_1\phi_1|\phi_1\phi_1)&\\

    && &=2E({\rm H})+\frac{1}{2}(\phi_1\phi_1|\phi_1\phi_1)&\\

    && &=-0.9332+0.3873&\\

    && &=-0.5459\;{\rm a.u.}

    \end{flalign*}

    を得る。解離極限のこのエネルギーは、同じ基底関数を用いて得られる水素原子のエネルギーの2倍(2$E$(H))ではなく、余分な項$\frac{1}{2}(\phi_1\phi_1|\phi_1\phi_1)$を含んでいる。この余分な項は、2個の電子が同じ空間軌道を占めるため、無限遠においてさえも電子間反発が残ってしまうことに起因する。いいかえると、解離生成物には2Hだけでなく、H$^-$とH$^+$が誤って入ってしまっている。このH$^-$のエネルギーが電子間反発積分$(\phi_1\phi_1|\phi_1\phi_1)$からの寄与を含んでいるのである。見方を変えれば、分子軌道波動関数共有結合項とイオン結合項を同じ重みで含む原子価結合波動関数と等価である。この波動関数は対称性によって決まっているので、解離の際にもイオン項が残るのである。非制限Hartree-Fockによる計算を考えるときに、この解離の問題を再び取り上げることにする。

     

    制限つき閉殻Hartree-Fock計算が開殻生成物への解離のとき貧弱に振舞うといっても、平衡核配置付近でのその有用性を減じるということはない。計算される平衡核配置とは、核座標について$E_{\rm tot}$が最小となるような配置である。表3.2には、実験による結合長1.4 a.u.付近の核間距離に対するH$_2$のエネルギーが与えてある。計算では$R=1.346$ a.u.でエネルギーが最小となる。この平衡核間距離の誤差は4\%で、この程度の近似では他の分子の平衡核配置に対しても同程度の誤差であると考えられる。

     

    最小基底関数によるH$_2$から話を移す前に、このモデルを例として軌道指数の最適化の問題を考えておきたい。いままでの計算では、標準的な軌道指数$\zeta=1.24$を用いた。軌道指数は波動関数に含まれる非線形パラメータである。変分原理によれば、与えられた関数形の中で最良の波動関数とは、波動関数の含むすべてのパラメータについてエネルギーが最小となっているものである。しかし軌道指数は非線形パラメータなので、その最適値を決定する簡単な計算手段はない。異なる軌道指数を使って数多くの計算を実行し、最適値を見いだすことに労力を払うよりも、水素原子の1 $s$ 軌道に対してSTO-3Gの指数値を1.24としたように、ある妥当な“標準”値をあらかじめ選んでしまうのがふつうのやり方である。より高い精度を望むなら、基底関数の規模を大きくすればよい。しかし“妥当な”値がどんなものになるかを決めなくてはならないときなどに、軌道指数の最適化が必要あるいは望ましい場合が生ずることがある。表3.3に、最小基底関数によるH$_2$の$R=1.4$ a.u.における全エネルギーの値が、いくつかの1 $s$ Slater軌道指数$\zeta$の値に対して与えてある。$R=1.4$ a.u.における最適な軌道指数は1.19である。この最適値は結合長によって変わり、また水素原子がどの分子に含まれているかにも依存する。種々の分子に対する水素原子の$\zeta$の最適値はふつう1.0(孤立水素原子に対する値)よりも大きく、STO-3Gの標準値1.24はいくつかの小型分子の最適値の代表的な値として選ばれているわけである。H$_2$に対する最適値が1.19だということは、ある意味では水素原子が2個の水素原子の単なる集まりよりも“小さい”ことを意味している。これは、化学結合においてはふつうに見られることであって、分子内の結合電子が1個ではなく2個の核に引きつけられているために電子雲が収縮していることを示している。

     

    \end{document}

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